【歯科医院の法人化】その前に必ず立ち止まって考えてほしい3つの視点とは?

経営情報

皆さん、こんにちは。
長崎県佐世保市で節税アドバイスの専門家として税務コンサルタントをしております、翔彩サポート代表の広瀬です。

今まさに“法人化”というキーワードが頭をよぎっている歯科医師の方へ、今回はぜひお伝えしたいことがあります。

「売上が1億円を超えてきたし、そろそろ法人化したほうがいいのでは?」
「周囲の先生たちも次々と法人化していて、自分も遅れている気がする…」
「顧問税理士から『法人化で節税できますよ』と言われたけど、それって本当に得なの?」

実際、年商が7,000万~1億円を超えたあたりから、多くの開業医の先生方が法人化を検討しはじめます。税理士からのアドバイスや他院の動向に影響を受けて「自分もそろそろ…」と考えるタイミングでもあります。

でもちょっと待ってください。
「法人化=正解」とは限らないのです。

実は、目の前の数字だけにとらわれて法人化を急ぐと、「法人化したけれど思ったより節税効果が出ない」、「スタッフ体制が整っておらず、運営が不安定になってしまった」、といったケースも決して少なくありません。

今回ご紹介するのは、まさにそのようなタイミングで立ち止まり、「あえて法人化を見送った」歯科医院の実例です。
なぜそのような結論に至ったのか?そして、法人化を判断するうえで見逃してはいけない“経営の本質”とは何か?

「法人化すべきかどうか」の悩みに直面している先生にこそ、じっくり読んでいただきたい内容です。


【事例紹介】年商1億円超、それでも“法人化を見送った”理由とは?

先日、チェア5台の歯科医院を経営する院長先生から、一本のご相談が寄せられました。

「医院の経営は順調そのものです。昨年、ついに年商1億円を突破することができました。税理士の先生からは“法人化すれば節税できますよ”とアドバイスをもらっています。でも…本当に今、法人化すべきなのか、自信が持てなくて。」

このご相談、実は多くの歯科医師の先生方が直面する“典型的な法人化の分岐点”です。税理士からの助言もまっとうなものですし、年商1億円、最終利益2,500万円という数値だけを見れば、法人化を考えるには十分なステージに見えます。

周囲の同業の先生方の中にも、既に法人化を済ませて順調に運営している人が増えてきたタイミングだったそうです。その影響もあり、先生自身も「そろそろ自分も決断しなければ」と、気持ちが揺れていたとのことでした。

しかし、先生の中にはどこか引っかかる“違和感”もあったようです。

「数字だけで決めてしまって本当にいいのか、少し不安なんです。私の医院はまだまだ体制も発展途上ですし、これからスタッフの入れ替えも起こりそうで…正直、目先の節税のために大きな決断をしていいのか、迷っています。」

この言葉を聞いたとき、私は確信しました。この先生は、目の前の税負担だけでなく、医院の将来像まで見据えて考えようとしている、非常に慎重かつ誠実な経営者だと。

だからこそ、私はお伝えしたのです。

「今のタイミングでの法人化は、見送るべきです」

法人化を提案することは簡単です。損益計算書を見れば、法人化による節税効果を数値で“見える化”することもできます。でも、法人化は節税目的の“手段”であり、経営そのものを大きく変える“ライフステージの転換点”でもあります。

実際、法人化を急いだことで、手続きや税制の違いに戸惑い、経営のバランスを崩してしまった医院も少なくありません。この先生の医院には、数字には現れない2つの重要な課題が隠れていたのです。

  • まだ活用しきれていない「所得分散」の余地
  • そして、今後の経営に影響を与える「人員体制の不安定さ」

これらの要素は、損益計算書を見ただけでは決して浮かび上がってきません。税理士が年に一度の確定申告時だけ関与しているような状況であれば、なおさらです。この事例が教えてくれるのは、数字の裏側にある“経営の現実”を丁寧に見つめ直すことの大切さです。

法人化は“目の前の節税効果”だけで決断してはいけません。本当にそのタイミングが最適なのか。そして、法人化という選択肢が、自院にとってプラスに働くか。今回の先生のように、一歩立ち止まることで見えてくる景色があるのです。


【結論】なぜ今、法人化を見送るべきだと判断したのか?

税理士の立場であれば、損益計算書の数字から「法人化による節税効果」は十分に導き出せます。でも、それは“数字だけの世界”での最適解です。私は、「数字に表れないリスク」や「経営環境の変化」までを含めて多角的に判断します。今回、法人化を見送るべきと判断した主な理由は以下の2つです。

  • 所得分散の余地がまだ残されていた
  • 人員体制に不安があり、将来の安定性が不透明だった

① 所得分散の余地がまだ残されていた

この医院では、院長先生の奥様も歯科医師として勤務されていました。ただし、数年前のご出産をきっかけに勤務時間が減り、専従者給与も300万円に引き下げたままになっていたのです。最近では再び医院での勤務時間が増え、診療における貢献度も明らかに上昇していました。

そこで私は、専従者給与の見直し(例:1,000万円への増額)を提案しました。これは、法人化しなくても有効な節税対策になります。つまり、個人事業のままでもまだ“やれること”が残っていたのです。

② 人員体制に不安があり、将来の安定性が不透明だった

法人化という選択は、中長期的な安定経営が見込めるタイミングで行うのが理想です。この医院では、来年度から育児休業に入るスタッフが出る予定であり、現在の体制を維持できるかどうかが不透明でした。

また、医院の診療スタイルは保険診療中心であり、マンパワーに依存する傾向が強く、受入れ患者数を減らさざるを得ないリスクもありました。「今後の売上や利益の見通し」が不確かな状態での法人化は、むしろ経営の足かせになることもあるのです。

【要注意】数字だけで判断すると、後悔することも

「先生、そろそろ法人にした方がいいんじゃないですか?」そんな一言を、顧問税理士や知人の先生から言われたことはありませんか?特に年商が1億円を超えたあたりから、このような声が増えてきます。周囲の医院が次々と法人化し、まるでそれが“成功の証”であるかのように感じてしまうこともあるかもしれません。

でも、ここで冷静に立ち止まってみてください。

法人化はたしかに節税効果や社会的信用といったメリットがある一方で、タイミングを誤ると後悔することも少なくない重大な経営判断なのです。一度法人化すると、戻すのは簡単ではありません。だからこそ、「法人化=正解」という短絡的な思い込みには注意が必要です。

その売上、継続的なものですか?“一時的な追い風”ではありませんか?

たとえば、昨年の売上が大きく伸びた理由を思い出してみてください。

  • 院長先生や一部のドクターが、いつも以上に稼働したことによる“人的要因”ではありませんか?
  • あるいは、特定のキャンペーンや自費診療の好調、保険点数の改定など“外部要因”の影響はありませんでしたか?
  • 一時的な患者集中やスタッフの頑張りによって支えられた数字ではありませんか?

こうした“追い風”がずっと吹き続ける保証はありません。むしろ、人的リソースや環境に依存していた場合、売上の変動リスクは極めて高いといえます。さらに、景気の変動や地域競合の増加、スタッフの退職や育休など、
医院経営は常に“変化の波”にさらされているという現実を見逃してはいけません。

数字だけを見て「もう法人化のタイミングだ」と思っても、その数字の“背景”まで丁寧に検証することが不可欠なのです。

個人事業のままでも、やれる節税対策はまだ残っていませんか?

法人化のメリットとして最もよく挙げられるのが「節税効果」ですが、実は個人事業のままでも、十分な節税が可能なケースは多々あります

  • 専従者給与の最適化
  • 小規模企業共済・国民年金基金の活用
  • 経費の見直しと資産の正確な把握

今一度、この機会にご自身の経営を見直してみて欲しいと思います。


【まとめ】法人化は「目的」ではなく「手段」です

法人化は、決して“ゴール”ではありません。経営の先行き、人的リソース、収入の安定性、そしてまだ残された節税手段などをすべて見つめ直した上で、法人化という選択肢が本当に必要かどうかを判断すべきなのです。

経営が順調な今こそ、慎重になることが将来の安定経営につながります。今、「法人化すべきか?」と悩んでいらっしゃる先生がいましたら、ぜひ一度、数字だけでは見えない側面にも目を向けてください。

私は、単なる節税提案ではなく、経営の全体像を見据えたアドバイスを行っています。
「迷ったときに立ち止まれる存在でありたい」そう願いながら、先生方の経営を支援しております。
ご覧いただきありがとうございました。私は、頑張る先生方の味方となります。

監修者情報

経営コンサルタント|翔彩サポート

【経営分析×経営アドバイス×財務管理】による永続的に繁栄する経営体制を支援。

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